妻は無能力者!?ー驚愕の明治民法を解説します。

query_builder 2024/04/03

4月1日よりNHK朝の連続テレビ小説『虎に翼』が放送されています。

日本初の女性弁護士の一人である三淵嘉子をモデルにしたドラマであり、法曹関係者の関心も高いようです。

朝ドラファンの当職も当然ながら注目しています。

昨日来、「妻は無能力者」というテーマが放送されています。

現在の民法は1896年(明治29年)4月に制定され、1898年(明治31年)7月に施行されたものです。

そのため、このときに制定された民法を「明治民法」と呼んでいます。

明治民法の特徴は、「家」制度という概念と男尊女卑の精神で貫かれているということです。

そこで今回は、明治民法の条文を現代語に変換して引用します。

妻の無能力は民法の総則編に規定されていました。


・第14条1項 妻が左に掲げた行為をなすには夫の許可を受けることを要する。

①第12条第1項1号から6号に掲げた行為

②贈与若しくは遺贈を受諾し又はこれを拒絶すること

③身体に羈絆を受けるべき契約をすること

2項 前項の規定に反する行為はこれを取り消すことができる。

 この条文がいわゆる「妻の無能力」と言われるもので、妻には法律行為をする能力(これを「行為能力」といいます)が認められていませんでした。

ただし、結婚前の女性や夫が死亡により寡婦になった場合には行為能力はあります。

では、なぜ夫がいると妻の行為能力を奪われたのでしょうか。

明治民法の立法者の一人である梅謙次郎(以下「梅」といいます)は、「天に2つの太陽がなく、国に2人の王がいないと同じように、家には2人の主人つまり戸主はいらない。もし家に2人の主人がいると一家の整理ができないからだ。親権は主として未成年者に対して行われ、夫権は妻に対して行われる。」と説明しています。

ちなみ1項にて夫の許可が必要とされる第12条の6つの行為とは、「元本を領収し、又はこれを利用すること」「借財又は保証をすること」「不動産又は重要な動産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること」「訴訟行為をすること」「贈与・和解又は仲裁契約をすること」「相続を承認し又はこれを拒絶すること」です(これは当時の準禁治産者の規定を準用したものです)。

この条文の2項では、他人から贈与を受けることも許可が必要ですが、贈与を受けること自体は利益なのですから妻の自由だと思うのですが、梅によれば、「品位上また感情上、贈与を受けることができないとすることができる。これらの判断はすべて夫の意見に任せられるのでなければ、その権力が行われないことになる恐れがある。」ということです。

言い換えれば、夫はそのときの気分や感情で妻に対する贈与を妻の意向に関係なく勝手に断ることができたのです。

それが「夫権」だったのです。

この条文の3項の「身体を羈絆する」という言葉は難しいですが、「行動の自由を縛るような」という意味で理解するといいのかもしれません。

梅によれば、「夫は妻に対して自己と同居させる権利を持っているので、妻は夫の許可なくして、その同居義務に違反するような契約などできるわけがない」ということです。

例えば、労働契約などは、家の外で働くことになるので、妻の同居義務に違反するのでしょう。



・第16条  夫はその与えたる許可を取り消し又はこれを制限することができる。ただし、その取消しまたは制限はこれをもって善意の第三者に対抗することができない。

この条文は夫が一旦妻に上記の許可をした後でも、その許可がなかったことにすることができる、ということです。

この条文についての梅の説明は、「夫は許可しても、その夫権を放棄することはない。だからどのような許可を与えたとしても、後に許可したことを後悔したときには、何時でもその許可を取り消すことができるようにしなければならない。」というものです。

夫権は絶対的だったわけです。


・第17条    左の場合においては妻は夫の許可を受けることを要しない。

①夫の生死が明らかではないとき

②夫が妻を遺棄したとき

③夫が禁治産者または準禁治産者であるとき

④夫が瘋癩のため病院又は私宅に監置されているとき

⑤夫が禁錮1年以上の刑に処せられその刑の執行中にあるとき

⑥夫婦の利益相反するとき

1号から5号までは、問題がないわけではありませんが、夫が妻を監督したり扶養できない場合を意味すると考えればやむを得ない規定でしょう。

そして、6号は、例えば夫に対して妻が離婚訴訟を起こすときには「夫婦の利益が相反すること」になるので、この場合には、第14条にもかかわらず、妻は自分で訴訟を起こすことができました。

要するに女性は結婚した途端に、法律行為の自由、行動の自由や経済的な自由を奪われました。

もちろんこのような規定は、法の下の平等を謳った日本国憲法14条1項及び両性の平等を認めた憲法24条に反するので、昭和22年には廃止されました。


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