「家族の仲が良いから、遺言書なんて残さなくても話し合いで上手くいく」 「うちには自慢できるような大層な資産や不動産はないから関係ない」
弁護士として相続のご相談をお受けする中で、このようなお声を非常に多く耳にします。しかし、実際の現場で最も激しい対立が起きているのは、特別な資産家ではなく、ごく一般的なご家庭の相続です。
平成30年の裁判所の司法統計によると、遺産分割調停(争い)となった件数のうち、なんと約75%以上が「遺産総額5,000万円以下」の事案です。
なぜ「ごく普通の家庭」でトラブルが多発してしまうのか。今回は、遺言書がない場合に起こりがちな具体的トラブルと、残されたご家族を争いから守るための対策を分かりやすく徹底解説します。
第1章:遺言書がないとどうなる?起こりがちな4つのトラブル
亡くなった方(被相続人)の遺言書がない場合、遺産の分け方は法律上の標準である「法定相続分」を目安としつつ、相続人全員による協議(遺産分割協議)によって決めることになります。
この「全員の合意が必要」という点が、大きなハードルとなります。
1. 不動産(実家)の分け方を巡る対立
最も多いトラブルが「遺産の大半が実家(不動産)のみ」というケースです。 預貯金のように1円単位で割ることができないため、以下のような意見の食い違いが生じます。
「親と同居していた長男はそのまま住み続けたい」
「他家に嫁いだ長女は、実家を売却して現金で均等に分けたい」
誰かが住み続ける場合、他の相続人に代償金(自分の取り分に相当する現金)を払わなければならず、その資金を用意できずに協議が頓挫することが多々あります。
2. 過去の感情や「寄与分」「特別受益」の主張
遺産分割の場は、単なる金銭の話し合いにとどまりません。長年の感情的なしこりが表面化しやすい場でもあります。
寄与分(きよぶん):「自分が長年親の介護をしてきたのだから、多くもらう権利がある」
特別受益(とくべつじゅえき):「兄さんだけ私立大学の学費や住宅購入資金を出してもらったのだから、その分差し引くべきだ」
お互いの主張が平行線をたどり、話し合いが感情論に発展すると、弁護士を立てなければ解決できない状態に陥ります。
3. 面識の薄い相続人がいて協議が進まない
相続人の範囲は、法律によって決まります。そのため、日常的な付き合いがない人物が協議に加わるケースがあります。
前妻(前夫)との間の子ども
子がおらず、亡くなった方の兄弟姉妹(あるいはその甥・姪=代襲相続人)
疎遠な関係の相続人がいる場合、連絡先を探すだけでも一苦労です。さらに、突然「法定相続分を請求します」と言われ、話し合いが難航するパターンは非常に典型的です。
4. 認知症の相続人がいる場合の「手続きのストップ」
相続人の中に認知症などで判断能力が低下している方がいる場合、その人は遺産分割協議に参加できません。 無理に協議を進めても無効になってしまうため、裁判所に「成年後見人」を選任してもらう手続きが必要になります。これには数ヶ月以上の時間と費用がかかり、遺産(預貯金)の凍結解除もその間一切できなくなります。
第2章:相続トラブルを完全に回避する「遺言書」の活用法
こうした悲劇を防ぐ唯一かつ最強の手段が、「遺言書の作成」です。生前に正しく遺言書を残しておけば、遺産分割協議を経ることなく、遺言書通りの内容でスムーズに名義変更や預貯金の解約が進められます。
遺言書を作成する際は、以下のステップとポイントを押さえましょう。
① 「自筆証書遺言」ではなく「公正証書遺言」を選ぶ
自分で手書きする「自筆証書遺言」は手軽ですが、日付の記載漏れや形式不備で法的効力が無効になる危険があります。また、紛失や改ざんのリスクも否定できません。
一方、公証役場で公証人に作成してもらう「公正証書遺言」であれば、形式上の不備で無効になる心配がありません。原本が公証役場に保管されるため、安全かつ最も確実に思いを届けることができます。
② 「遺留分(いりゅうぶん)」への配慮を忘れない
配偶者や子どもなど(兄弟姉妹を除く法定相続人)には、どんな遺言があっても最低限保障されている遺産の取り分「遺留分」があります。
例えば「すべての遺産を長男だけに譲る」といった極端な遺言書を作ってしまうと、他の子どもから長男へ「遺留分侵害額請求」という金銭請求を起こされ、結局家族間で裁判沙汰になってしまいます。弁護士と相談しながら、遺留分を侵害しない(あるいは配慮した)内容で作成することが肝要です。
③ 「付言事項(ふげんじこう)」で思いを伝える
法律的な効力を持つ本文とは別に、遺言書の末尾にメッセージを残せる「付言事項」という枠組みがあります。
「なぜこの分け方にしたのか(理由)」
「家族への感謝の気持ち」
「これからも兄弟仲良く助け合ってほしいという願い」
これを書き添えておくことで、残された家族の感情的な納得感が大幅に高まり、トラブルを未然に防ぐ心のブレーキとなります。
第3章:まとめ 〜「元気なうち」の相談が家族の未来を守ります〜
相続対策は、「財産をいくら残すか」ではなく、「遺された家族が揉めずに仲良く暮らしていけるか」のための準備です。
認知症になってからでは、有効な遺言書を作成することができなくなってしまいます。ご自身が意思判断をしっかりできる「元気なうち」に動くことが何よりも大切です。
「我が家の場合はどういう書き方をすればいい?」「不動産はどう分けるのが一番スムーズ?」など、疑問やご不安がある方は、手遅れになる前にぜひ一度、相続問題のプロである弁護士にご相談ください。ご家庭の事情に合わせた最適な相続プランをご提案いたします。
弁護士 濵門俊也
住所:東京都中央区日本橋人形町1丁目6−2 安井ビル 5f
電話番号:03-3808-0771
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