老後資金の柱となるのは、公的年金だけではありません。
長年勤務したことへの報いである「退職金」や、会社独自の「企業年金」は、財産分与において現預金に匹敵する、あるいはそれ以上の重みを持つ資産です。
しかし、これらの資産には「将来受け取れるかどうかが確定していない」という特有の難しさがあります。
第2回では、これらを適正に評価し、有利に清算するための実務的な計算ロジックを解説します。
1. 退職金の分与:計算式の基本と「寄与度」の考え方
退職金は「賃金の後払い」としての性格を持つため、婚姻期間に対応する部分は夫婦の共有財産とみなされます。
実務で用いられる基本的な計算式は以下の通りです。
退職金総額 ×(婚姻期間 ÷ 全就労期間)× 1/2 ここで重要なのは、評価のタイミングです。
既に退職して受領済みの場合はその金額が基準となりますが、現役時代に離婚する場合、原則として「離婚時、あるいは別居時に自己都合退職したと仮定した金額」を基準に算出します。
ただし、退職までまだ数年以上ある場合、相手方から「将来もらえる保証がない」との反論を受けることがあります。
2026年現在の実務では、勤務先の規模や勤続年数に照らし、受領の蓋然性(可能性)が高いと判断されれば、将来の退職金も分与の対象として認められるのが通例です。
2. 「今もらうか、将来もらうか」――二つの支払い方法
将来の退職金を清算する場合、主に二つの選択肢があります。
一時金としての代償金支払い: 離婚時に、将来の退職金から算出された分与額を、現預金などの別資産で前払いしてもらう方法です。
この場合、将来の不確定要素を考慮し、「中間利息(ライプニッツ係数など)」を控除した金額となるため、受領額は少なくなりますが、確実に手元に残るメリットがあります。
将来の受領時支払い: 相手方が実際に退職金を受け取った際に、約束した金額(または割合)を支払ってもらう方法です。
金額は減りませんが、相手方の倒産リスクや再婚による支払渋りといった回収リスクを伴います。
5年という長い財産分与期間が認められた現在、相手方の定年退職が近いのであれば、退職を待ってから確定した金額で清算するという戦略も、以前より現実的な選択肢となっています。
3. 企業年金(確定給付・確定拠出)の死角
公的年金の「年金分割」制度の対象とならないのが、企業年金やiDeCo(確定拠出年金)です。
これらは「年金」という名称ですが、実務上は「預貯金や退職金に近い財産」として扱われます。
確定給付企業年金(DB): 退職金と同様のロジックで評価します。
離婚時に脱退したと仮定した場合の「一時金相当額」を算出し、その婚姻期間分を分与対象とします。
企業型確定拠出年金(DC)・iDeCo: 拠出された資産の時価が明確なため、別居時や離婚時の時価残高のうち、婚姻期間中の拠出分を分与対象とします。
運用成績によって金額が変動するため、評価日の設定が極めて重要になります。
これらは見落とされがちな資産ですが、特に大手企業や医療機関、士業法人などに勤務している場合、数百万円から一千万円単位の差が出ることも珍しくありません。
4. 戦略的視点:トータル・バランスでの調整
老後の住居として自宅を確保したい場合、退職金や企業年金の分与請求権を「権利の放棄」という形で対価にし、自宅の持分を優先的に取得するといった交渉も有効です。
キャッシュフローを優先するのか、居住の安定を優先するのか。2026年4月から導入された「共同親権」下で子との生活拠点を維持する必要がある場合など、個別の事情に応じた柔軟な資産配分が求められます。
結びに:専門的な試算が「納得」を生む
退職金や企業年金の評価は、就業規則や退職金規定を読み解き、複雑な係数を用いて算出する高度な作業です。
相手方の提示する金額を鵜呑みにせず、客観的な計算ロジックに基づいて主張を展開することが、老後の生活を守るための唯一の手段となります。
次回予告: 最終回となる第3回では、2026年から本格化した「デジタル法廷(e訴訟)」の活用術を取り上げます。
IT化が隠れた資産の追及をいかに容易にしたのか、最新の証拠保全戦略を解説します。
弁護士 濵門俊也
住所:東京都中央区日本橋人形町1丁目6−2 安井ビル 5f
電話番号:03-3808-0771
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