2026年4月、日本の離婚実務は大きな転換期を迎えました。
民法改正により、離婚に伴う財産分与の請求期限(除斥期間)がこれまでの2年から「5年」へと大幅に伸長されたのです。
この改正は、特に婚姻期間が長く、資産の全容解明に時間を要する熟年離婚において、依頼者の権利を保護する強力な武器となります。
しかし、法律の専門家として警鐘を鳴らさなければならないのは、この「5年」という猶予がもたらす油断と、他の制度との間に生じた「時間のねじれ」です。
1. 財産分与「5年」への伸長が意味する実務的変化
これまでの「2年」という期間は、離婚後の混乱の中で生活を立て直し、相手方の隠れた資産(預貯金、株式、退職金など)を調査するにはあまりに短いものでした。
特に、配偶者に経済基盤を握られていた側にとっては、時間切れで泣き寝入りを強いられるケースも少なくありませんでした。
今回の改正により、離婚から最大5年間は、正当な権利として財産の清算を求めることが可能になりました。
これにより、離婚成立を優先させて財産問題を後回しにする「スピード離婚」を選択したとしても、後から緻密な調査に基づき、寄与度に応じた公平な分配を求める戦略が現実味を帯びてきたのです。
2. 「2年の壁」が残る年金分割の危うさ
ここで最も注意すべきは、老後の生命線である「年金分割」の請求期限は依然として2年のまま据え置かれているという点です。
「財産分与は5年まで大丈夫だから」と安心している間に2年が経過してしまうと、厚生年金の保険料納付記録を分割する権利は、原則として消滅してしまいます。
将来の受給額に月数万円の差が出る年金分割を失うことは、老後のキャッシュフロー設計において致命的な打撃となります。
財産分与の協議を5年かけてじっくり進める戦略をとる場合であっても、年金分割だけは離婚直後に先行して手続を完了させておく、あるいは調停条項に確実に盛り込んでおくといった、時間軸の二段構えの管理が不可欠です。
3. 「時間の経過」という目に見えない敵
期間が伸長された一方で、実務上の難易度が上がる側面も無視できません。
それは「証拠の散逸」です。
離婚から4年、5年と経過した後に提訴する場合、婚姻期間中の通帳履歴の保存期間が過ぎていたり、当時の資産形成の経緯を知る資料が破棄されていたりするリスクが高まります。
2026年現在、裁判手続のIT化(e訴訟)が進み、電子データの証拠価値は以前にも増して重要視されています。
しかし、データそのものが消去されてしまえば、法が認めた5年という期間も空文化してしまいます。
戦略的アドバイス: 請求できる期間が延びたことは、調査の精度を上げるための「準備期間」が増えたと捉えるべきです。
離婚時にクラウドストレージやデジタルアーカイブを活用し、可能な限りの金融データを保全しておくこと。
これが、5年という長い戦いを制するための最低条件となります。
4. まとめ:老後の安心を左右する「最初の決断」
改正法が施行されたばかりの現在は、裁判所側も新制度の運用を積み重ねている段階にあります。
施行日以前に離婚された方であっても、旧法の2年が経過していなければ新法の5年が適用されるという経過措置(救済策)もあり、今まさにチャンスを手にしている方も多いはずです。
「5年あるから待つ」のではなく、「5年かけて完璧な清算を行う」ために、まずは年金分割という2年の期限がある権利を確保する。この優先順位の整理こそが、老後を見据えた離婚戦略の第一歩です。
次回予告: 第2回では、老後資金の要となる「退職金」と「企業年金」の評価に焦点を当てます。
いつ、どのように清算するのが最も有利なのか、実務家ならではの計算ロジックを解説します。
弁護士 濵門俊也
住所:東京都中央区日本橋人形町1丁目6−2 安井ビル 5f
電話番号:03-3808-0771
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