▼共謀共同正犯について最近の裁判例をふまえて解説します

query_builder 2025/10/03
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共謀共同正犯(刑法60条の共同正犯の一形態)は、実行行為を分担しなかった者であっても、他の者の犯罪実行を自己の犯罪として利用する共同意思(共謀)を持ち、その共謀に基づいて他の者が実行行為を行うことで犯罪が実現した場合に、実行行為を行った者と同様に正犯として処罰されるという理論です。

成立のためには、一般に以下の要件が必要とされます(判例による)。

①特定の犯罪を実行する共同意思(共謀): 特定の犯罪を実行することについて、2人以上の者の間で意思の連絡があること。

明示的な合意だけでなく、黙示的な合意(暗黙の共謀)でも成立しうるとされています(最判昭和24年11月10日など)。

この共謀には、相互に他人の行為を利用して各自の意思を実行に移すという内容が含まれることが必要です(最判昭和33年5月28日、練馬事件判決など)。

②共謀に基づく実行行為: 共謀した犯罪の実行行為が、共謀者の一人または複数によって行われたこと。

③正犯意思: 単に他の者を助けるという意思(幇助犯の意思)ではなく、自らも主体となって犯罪を実現しようとする意思(正犯意思)が必要です。

これは、共謀の内容、役割分担の状況、関与の程度などから判断されます。


最近の裁判例をふまえたポイント

近年、特に共謀の範囲や成立時期、意思的要素の判断を巡って、注目すべき裁判例が示されています。


1. 共謀の射程(範囲)

共謀共同正犯が成立する場合、共謀した行為の範囲(共謀の射程)がどこまで及ぶか、が争点になることがあります。

札幌地判令和3年9月27日(生命身体加害略取、逮捕監禁、傷害の事案)

被告人2名のうち、一方の被告人のみが実行した暴行について、「当初の共謀の範囲内」に含まれると認定し、共同正犯の成立を肯定しました。

これは、共謀した犯罪遂行の過程で、当初の計画にはなかったものの、予定された犯罪の実現に必要不可欠であったり、密接に関連していたりする行為であれば、共謀の射程内に含まれるとして、非実行者にも責任を負わせるという判断を示すものです。


2. 「共謀」における意思的要素の判断

共謀の成立要件である意思連絡について、特に不正競争防止法違反のような複雑な事案で、どこまで具体的な認識や意思が必要かが争点となりました。

最決令和4年6月27日(不正競争防止法違反の事案)

外国公務員への贈賄が問題となった事案で、最高裁は、不正競争防止法違反の罪の共謀共同正犯が成立するには、特定の犯罪を実行する共同意思、すなわち、相互に他人の行為を利用して各自の意思を実行に移すことを内容とする謀議が必要であることを改めて確認しました。

事案の複雑性から下級審で判断が分かれたものの、最高裁は、単に事実を知っていただけでは足りず、自己の意思として犯罪の実行に加担し、その結果を自己のものとする意思(正犯意思)が共謀の中に含まれることを示唆する判断と言えます(ただし、事案の詳細な判断は異なる)。


3. 承継的共同正犯(途中共謀加担)の否定

共謀共同正犯ではありませんが、共同正犯の成立範囲に関する重要な判例として、途中から共謀に加担した場合の責任範囲(承継的共同正犯)に関する最高裁の判断があります。

最決平成24年11月9日(傷害致死の事案)や、それを踏まえた最決令和2年9月30日(傷害の事案)

先行者が既に被害者に暴行を加え負傷させていたところへ、後行者が到着し共謀加担して暴行を加え、被害者が傷害を負ったという事案について、後行者が加担する以前に生じていた傷害の結果については、共同正犯として責任を負わせることはできない(承継的共同正犯は成立しない)という立場を維持しています。

つまり、共謀加担時点より前に発生した結果について、共謀共同正犯(承継的共同正犯)の理論で遡って責任を負わせることは認めない、という原則が再確認されています。

このように、共謀共同正犯は、非実行者も正犯として処罰するという強力な理論であるため、近年でも「共謀の射程」や「意思の有無」といった成立要件の厳格な適用と解釈が、裁判例を通じて図られています。

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