▼承継的共同正犯について解説します

query_builder 2025/10/02
0408-66

承継的共同正犯とは、ある犯罪の実行行為がすでに開始された後に、他の者がその犯罪に加担し、共謀の上で残りの実行行為を遂行する場合に、後行者が先行者の行為・結果について共同正犯としての責任を負うか否かが問題となる概念です。

この論点は、共同正犯の成立要件のうち「共謀と実行行為との因果関係」に関わるものであり、刑法理論上も実務上も極めて重要です。


1. 基本構造と問題点
共同正犯の成立には、①共謀、②その共謀に基づく実行行為、③共謀と実行行為との因果関係が必要とされます。

承継的共同正犯では、後行者が共謀に加担する以前に先行者が実行行為を開始しているため、後行者の共謀と先行行為との間に因果関係を認めることが困難です。

したがって、後行者が先行行為によって生じた結果について責任を負うか否かが争点となります。


2. 判例の展開
平成24年決定(傷害罪)
この判例では、先行者が暴行を加えて傷害を負わせた後に、後行者が共謀に加担し、さらに暴行を加えた事案が問題となりました。

最高裁は、後行者の共謀加担前に生じた傷害結果については因果関係が認められないとして、共同正犯の成立を否定しました。

一方で、共謀加担後に加えた暴行によって生じた傷害については、共同正犯の成立を認めています。
この判断は、「積極的利用説」(先行行為を積極的に利用した場合は共同正犯が成立する)を否定し、因果性基準説(共謀と実行行為との因果関係が必要)に立脚したものです。
平成29年決定(詐欺罪)
一方、詐欺罪に関する判例では、先行者が詐欺行為を開始した後に後行者が加担した事案において、最高裁は承継的共同正犯の成立を肯定しました。

これは、詐欺罪においては法益侵害(財産的損害)が行為の終了時点で確定するため、後行者の加担が法益侵害前であれば、共謀と実行行為との因果関係が認められると判断されたからです。
令和2年決定(刑法207条の適用)
さらに、令和2年の最高裁決定では、刑法207条(同時傷害の特例)の適用が争点となりました。

この判例では、後行者が共謀加担した後に暴行を加えたが、傷害結果が共謀成立後の暴行によって生じたとは認められない場合に、刑法207条の適用を肯定するか否かが問題となりました。
最高裁は、後行者の暴行が傷害を生じさせ得る危険性を有する場合には、刑法207条の適用を肯定し、共同正犯の成立を認める余地があるとしました。

一方で、危険性が認められない場合には、同条の適用を否定しています。


3. 学説の対立
学説上は、以下の三説が存在します:
• 全面肯定説:後行者が途中から加担した場合でも、先行行為を含めた全体について共同正犯の責任を負う。
• 全面否定説:因果性が過去に遡及しない以上、後行者は先行行為による結果について責任を負わない。
• 中間説(積極的利用説・因果性基準説):後行者が先行行為を積極的に利用した場合や、因果性が認められる範囲に限って共同正犯を肯定する。
現在の最高裁判例は、因果性基準説に近い立場を採っており、積極的利用説を否定する傾向にあります。


4. 実務的な論証の工夫
答案作成においては、共同正犯の要件を明確に三つに分け、特に③の因果関係の要件において、後行者の行為がどの範囲の結果に因果性を及ぼすかを丁寧に検討することが重要です。

傷害罪では、同時傷害の特例の適用可能性も忘れずに検討する必要があります。


結論
承継的共同正犯の成否は、犯罪類型ごとの法益侵害の時点、後行者の加担の態様、因果性の有無によって左右されます。

最高裁は、単に「積極的利用」があったというだけでは共同正犯の成立を認めず、因果性の有無を厳密に検討する立場を採っており、今後の実務や答案作成においてもこの視点が不可欠です。

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